この照らす日月の下は……
17
朝からアスランの機嫌が悪い。
いったいどうしてなのだろうか。いくら考えてもキラにはわからない。
「僕、なんかしたかなぁ」
今日したことは、迎えに来た彼にカナードを紹介したことぐらいだ。
その後はいつものように登校して学校で過ごした。その時にはもう彼の機嫌は悪かったように記憶している。
それでも学校にいたときはまだマシだったのだとわかったのは、家に帰ってきてからだ。
「キラ!」
いつもよりとげを含んだ声が耳に届く。
「うるさいぞ、ちび」
それにキラが言葉を返すよりも先にカナードが口を開いた。
「今、キラは自分の課題を解いているだろうが。邪魔するな」
厳しい口調だが間違ったことは逝っていないはずだ。実際、自分の目の前の課題は後四分の一ほど残っている。
「だから、手伝うって言っているだろう」
アスランはカナードに向かってそう言い返す。
「それでは身につかないだろう。自分の都合だけでキラの学習機会を奪うな」
将来何も出来ない人間になったらどうするのか。カナードがそう続ける。
「キラが『嫌だ』と言うなら考えるが、本人もやりたがっているしな」
そうだろう、と問いかけられてキラは素直に首を盾にふて見せた。
「知らないこと、覚えるのは楽しいの」
キラはそしてしっかりと主張する。
「キラ……」
「僕は自分のことは自分で出来るもん」
アスランに手伝ってもらわなくても、と言外に告げた。
「時間はかかるけど、それでも出来るもん」
この言葉に、アスランは驚いたような表情を作る。
「本当にキラはそれでいいの? 遊ぶ時間、減るよ?」
「でも、やらなきゃないことはちゃんとやらないとだめだって言われたの」
だから、終わるまで遊べない。今まで言いたかったセリフをようやく口に出来た。そう認識した瞬間、無意識のうちに笑みがこぼれ落ちる。
「よく言えたな」
そんなキラの髪をカナードがなでてくれた。その指の感触が気持ちよくてキラは目を細める。
「……何だよ、それ」
だが、アスランの機嫌はさらに悪くなっていた。
「キラは僕と遊ぶよりもそいつと一緒にいる方がいいの?」
そのまま彼は二人をにらみつけると怒鳴るように問いかけてくる。
しかし、キラにはどうして彼がそう言うのかがわからない。そもそも比べられるようなことではないのだ。
「……わかんない」
答えが出ない以上、そう答えるしかない。そう判断をしてキラはそう言う。
「何故、わからないんだ?」
簡単な問題だろう、とアスランはさらに問いかけの言葉を投げつけてくる。
「だって、アスランとカナードさんは全然違うもん」
キラはそう言い返す。
「勝手にしろ! もう、キラなんて知らない」
そう言うとアスランはリビングへとかけだして行く。勢いよく開けられたドアが大きな音と共に閉められた。
「……僕……」
何か失敗したのか、とキラは不安になる。
「お前は間違ってない。あいつが勝手に自分の理想をお前に押しつけているだけだ」
それにカナードはこう言い返してきた。
「全く……昔の俺よりもわがままだな。それこそ、ギナ様の鉄拳制裁を受ければいいものを」
そう言うギナもミナとムウにそれなりに教育されていたらしいが、と彼は笑う。
「お前は続きをしていろ。俺はカリダさんに報告してくる」
そう言うとカナードもまた部屋を出て行った。